結論:“売る前に不安を可視化して、引渡し後の揉めどころを先に潰す”ためのセット運用が最強。
インスペクション(既存住宅状況調査)で現状を診断し、必要なら軽微補修→既存住宅売買瑕疵保険を付けて、価格の下支えと交渉短縮を狙います。
1) まず用語整理
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インスペクション:既存住宅を対象に建物の劣化・不具合リスクを有資格者(講習済み建築士等)が点検し、現況報告書を出すもの。主対象は構造安全性や雨漏り・給排水・躯体の劣化兆候など。
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既存住宅売買瑕疵保険:売買後、一定の不具合が発覚した場合の補修費等をカバーする保険。検査に合格し、所定の条件を満たすと付保できる。
→ セットで使うと、買い手の不安軽減→価格の説得力UPに直結。
2) メリット(売主目線)
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価格の“根拠”が増える:写真と併せて一次情報(検査報告書)を提示でき、値引き圧を抑えやすい。
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破談・トラブルの抑制:引渡し後の「知らなかった/聞いていない」を保険・報告書で受け止められる。
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広告面で強い:「検査済/保険付可」などの表示で差別化。内見→申込の歩留まりが改善しやすい。
3) 費用感と所要
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インスペクション:数万円〜十数万円台が目安(規模・地域で変動)。半日〜1日の調査+1〜2週間で報告書。
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瑕疵保険:検査費用+保険料で数万円〜十数万円が相場感。指摘の是正(軽微補修)が必要な場合は別途。
※金額より大切なのは、報告書の網羅性と付保の可否(条件)。見積は複数社で比較を。
4) いつ・どう使う?(タイムライン)
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訪問査定後すぐ:上振れ/下振れの要因を洗い出す
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インスペクション実施:指摘事項を重要度×費用で仕分け
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軽微補修+再撮影:写真1〜3枚の説得力を強化
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瑕疵保険の付保手続:条件が整えば**“保険付で売出”**
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募集開始:図面・備考に検査済/保険付可(付)、報告書の要点を記載
5) “やる/やらない”の判断基準
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やるべき:築年が進んでいる/雨漏り歴が不明瞭/買い手が金融機関・親族から慎重姿勢を求められそう/価格帯が近隣よりやや強気。
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見送ることも:売却スピード最優先/明確な現況渡し(免責)を合意済み/指摘是正に時間がかかる。
→ 迷ったらインスペクションのみ先行。結果を見て保険の是非を決める二段構えが安全。
6) 表示・交渉で効く“伝え方”
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図面の備考例:「202X年X月インスペクション実施/指摘軽微箇所は是正済(報告書・完了写真有)/既存住宅売買瑕疵保険 付保済(または付保可)」
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内見資料:検査報告ダイジェスト(要約1枚)+詳細報告書、是正箇所のビフォー→アフター写真、保証・取説ファイル。
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交渉:「不確実性」を価格でなく資料で圧縮。値引き要望が出たら、指摘箇所の実費相当で話を着地させやすい。
7) よくある疑問
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全部“保険で”直るの? → いいえ。対象・限度・期間があり、全てをカバーするわけではない。募集前に何が対象外かも説明しておく。
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指摘が出ると不利? → むしろ可視化した方が安心。軽微なら是正+写真で価値に変えられる。
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戸建とマンションの違い → 戸建は屋根・外壁・床下まで点検範囲が広く、資料の厚みが価格に効きやすい。マンションは専有部+管理資料の二本立てで。
8) 実務チェックリスト
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見積は2〜3社、調査範囲と報告粒度で比較
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指摘を重要度×費用で仕分け、写真再撮まで一気に
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瑕疵保険の付保条件(是正要否・対象範囲・期間)を確認
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図面・備考・レインズに検査済/保険付可を明記
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内見用に報告ダイジェスト+証憑ファイルを準備
まとめ
インスペクション=不安の見える化、瑕疵保険=引渡し後の安心の“後ろ盾”。
この二つを準備段階でセットにすれば、買い手の検討速度が上がり、値引きと破談の確率を下げられます。
価格勝負の前に、事実と保証で“疑いの余地”を小さくしましょう。