「いまの家を売って住み替え。
ローン控除や特例はどうなる?」——まずは“どの税目に効く制度か”を分けて理解すると迷いません。
1) まず区別:所得税の控除 vs 譲渡益の特例
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住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
毎年の所得税(住民税)から差し引く制度。原則、居住している年に効く。売却で遡って返すことは通常なし。ただし居住をやめた年以降は適用外。 -
譲渡所得の特例(売却益/損に効く)
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居住用財産の3,000万円特別控除:マイホームを売って利益が出たとき、最大3,000万円まで利益を差し引ける代表格。
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買換え等の特例(課税繰延):一定の買い替えで、売却益の課税を先送り。
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譲渡損失の損益通算・繰越控除:損が出たとき、給与等と相殺・翌年以降へ繰越も。
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ポイント:ローン控除=“保有中”の節税、譲渡特例=“売却時”の節税。土俵が違います。
2) よくある“勘どころ”
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居住要件のタイムリミット
3,000万円特別控除などは、転居後も一定期間内の売却なら対象。空き家にして長く放置は不利になりがち。 -
併用関係
譲渡特例同士は選択適用の関係が多い(例:3,000万円特別控除と買換え特例はどちらか一方)。一方、新居側の住宅ローン控除と、旧居の売却で使う特例は“併行し得る”ケースがあるが、細かな条件が多いので要件確認が必須。 -
所有期間や居住期間
税率や適用可否に影響。**“何年持ち・何年住んだか”**を先に整理。
3) 手取り試算の型(まずは枠組み)
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譲渡所得=売却価格 −〔取得費(購入代金+諸費用−減価償却)+譲渡費用(仲介手数料等)〕
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特例の適用(利益→3,000万円控除等/損失→損益通算 等)
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税額の見込み(所有期間で税率区分が変動)
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売却手取り=売却価格 −〔ローン完済額+諸費用+税額〕
取得費が不明なら概算取得費の扱いを検討(売価×一定割合など)。領収書類の発掘が手取りを左右。
4) 住み替え・ケース別の考え方
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利益が出る見込み:まずは3,000万円控除の要件確認。買い替えで長期的に利益を繰延したい事情があれば買換え特例と比較。
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損が出る見込み:損益通算・繰越控除の可否をチェック。新居のローン控除と同年適用の可否は要件を慎重に。
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転居済み・空き家:売却期限の要件と、空き家維持のコスト(固定資産税・劣化)を並べ、早期売却の是非を判断。
5) 実務チェックリスト(保存版)
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いつからいつまで住んだか(住民票ベースで確認)
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所有開始日・取得費の根拠(売買契約書・領収・登記費用)
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売却諸費用の見込み(仲介手数料・印紙・抹消・測量 等)
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どの特例を使うか(選択適用の関係を確認)
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新居側のローン控除の要件(床面積・年収上限・入居時期 など)
まとめ
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ローン控除は“居住中の減税”、譲渡特例は“売却時の節税”。役割が違う。
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利益か損か/転居からの時間/所有・居住年数で使える札が変わる。
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まずは譲渡所得のざっくり計算→使える特例の当てはめ→ローン控除との整合の順で、手取り中心に意思決定しましょう。