実需と違い、投資家は数字で買います。
だからこそ、収益の“現在値”だけでなく“再現性”を資料で示すことが価格を押し上げる最短ルートです。
1) まずは指標をそろえる(定義ブレを排除)
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表面利回り=年間賃料総額÷売出価格
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NOI(営業純利益)=賃料・共益等 − 空室損・滞納損 − 運営費
※運営費=管理委託・修繕・共用光熱・保険・広告AD・清掃・点検・固定資産税等(借入利息・減価償却・所得税は含めない) -
NOI利回り=NOI÷(購入総額=価格+購入諸費用)
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キャップレート(還元利回り):周辺の同等案件に合わせ根拠付きで提示
→ 広告では表面とNOI利回りを併記し、算式・前提を脚注で明確化。
2) レントロールで“再現性”を証明
投資家が最初に見るのはレントロールです。以下を1枚に集約。
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戸別:賃料/共益、面積、契約形態(普通/定期)、入居日、更新日、敷金、滞納有無
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空室:想定賃料の根拠(周辺成約、募集リンク、リーシング実績)
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退去予定:原状回復費の平均、AD慣行
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入金履歴:直近12か月の入金表(税理士元帳や通帳写し)
→ 「いま入っている賃料」が市場賃料と比べ高い/低い理由まで言語化します。
3) 区分と一棟、評価のツボ
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区分:管理費・修繕積立金、水回り年式、管理組合の滞納率・長期修繕計画が価格の芯。短期空室なら**募集計画(賃料根拠・AD・期間)**を添付。
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一棟:共用電気・清掃・点検の原価、直近の大規模修繕履歴、法定点検(消防・貯水槽・EV)の合格記録。空室の是正計画(家賃設定とAD、想定回復時期)までセット。
4) “見せ方”で上振れさせる工夫
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分母の正規化:購入総額でNOI利回りを示し、諸費用の見積を添えて透明性を担保。
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再現可能なコストダウン:清掃頻度見直し、LED化、共用電力の契約種別変更など、実行済/実行予定の根拠を数字で。
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賃料ギャップの物語化:周辺相場−現行賃料の乖離、**改定手順(更新/入替)**と達成時のNOIシナリオを提示。
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写真は“収益設備”を主役に:メーターBOX、宅配BOX、オートロック、ゴミ置場、掲示板の運用感。投資家は管理の匂いを見ます。
5) 1週間でできる価値向上アクション
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空室1戸は募集開始→写真刷新→AD設計まで一気に。
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入金表・領収書を整形し、年間の運営費サマリーを作成。
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管理会社から修繕履歴・点検結果を取り寄せ、時系列で1枚に。
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賃料根拠表(近隣募集/成約5件)を作り、ギャップの説明材料に。
6) 資料パッケージ(これが揃うと強い)
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レントロール(現行+想定)
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入金履歴12か月/運営費内訳(前年比)
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管理委託契約書・仕様書、点検/清掃の報告書
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修繕履歴・長期修繕計画(区分は組合資料)
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固定資産税通知・保険証券
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賃料根拠表(周辺相場)/空室リーシング計画
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法令・検査の適合資料(検査済、消防等)
7) 小さな試算を添える(買い手の“電卓”を先回り)
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現行:賃料年360万円、空室損3%、運営費120万円 → NOI=228万円
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想定:賃料改定+空室充足で年380万円、空室損2%、運営費115万円 → NOI=257.4万円
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売出8,000万円、諸費用6%とするとNOI利回り
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現行:228 ÷ 8,480 ≒ 2.69%
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想定:257.4 ÷ 8,480 ≒ 3.04%
→ 「今」と「改善後」の二枚看板で、価格と将来像を同時に納得させる。
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まとめ
投資用は“事実×再現性×透明性”が価格を決めます。
定義を揃えた利回り表示/厚いレントロール/改善シナリオの三点セットを武器に、電卓を叩く投資家の一歩先で答えを用意しましょう。数字で語れれば、交渉は短く、NOI利回りは自然と上振れます。