「告知事項あり」でも、準備と見せ方で価格の下振れをコントロールできます。
基本は ①一次情報で不安を除去、②顧客層を再定義、③値付けを“根拠付き”で——の3点です。
1) まず整えるべき一次情報(“不安の源”を断つ)
-
事実関係:発生年月、場所、経緯、警察・消防・保険の記録(写し)。
-
物理対策の証憑:特殊清掃報告書、オゾン脱臭・消毒の実施証明、臭気・細菌検査結果、補修箇所の施工写真・保証。
-
建物コンディション:インスペクション(既存住宅調査)、設備点検(給排水・電気・ガス)。
-
管理・近隣:マンションは長計・修繕履歴/戸建は境界・再建築可否。
→ 「事実」「対応」「現況」を書類で提示できれば、心理的抵抗は大きく下がります。
2) ターゲットを変えると“値引き圧”は変わる
-
投資家(賃貸化前提):賃料をやや抑えても利回りで魅力訴求可。想定賃料・空室率・ランニングコストを添えて収益計画を提示。
-
リノベ前提の実需:スケルトン/フル内装を想定する層へ、間取り提案と概算見積をセットで出す。
-
用途転換(SOHO・セカンド・事務所):居住の心理抵抗が強い場合は非居住用途で需要を掘る。
→ “誰に売るのか”を先に決めると、写真・文章・資料の作り方が定まります。
3) 値付けは“式”で決める(感覚禁止)
出し値 = ベース相場 − {物理修繕費+販売遅延コスト+心理的ディスカウントの想定幅}
-
ベース相場:直近成約×駅距離・築・面積で補正(通常案件と同じ手順)。
-
物理修繕費:特殊清掃・内装刷新・設備交換の見積書ベース。
-
遅延コスト:管理費・固定資産税・ローン利息等の月額×想定販売期間。
-
心理的ディスカウント:地域・時期・内容で幅が出ます。近隣の既往事例と反響データで**レンジ(例:数%〜十数%)**を設定し、初動2週間のKPIで微修正。
→ 「どれだけ引いたか」ではなく「なぜその金額か」を説明できることが重要。
4) 表示と見せ方の実務
-
告知のタイミング:募集開始時点で先出し。終盤に出すほど値引き幅が膨らむ。
-
告知書の書き方:「事実(年月・場所)/対応(何を実施)/現況(再発無・測定値)/留意点」を短文で具体に。
-
写真の作法:ビフォーは不要。アフターの清潔感(水回り・白基調)を1〜3枚目に。
-
文章のトーン:過度な美化や否定はしない。「特殊清掃・内装リフレッシュ実施/報告書あり/内見時に資料一式をご確認ください」の事実ベースで。
5) ケース別の勘所
-
自然死(発見遅延なし):事実+清掃・消毒の証憑で心理負担は小さめ。通常相場に近い価格設計が可能なことも。
-
自殺・事件・火災:発生からの時間経過、内装の刷新度合い、臭気の客観データが鍵。共用部・躯体への影響は一次資料で裏付け。
-
近隣トラブル・継続要因:今後も影響が見込まれる場合は、管理・行政の対応状況を併記。価格だけで解決しないため、ターゲット変更も検討。
6) 契約条項で“後戻り”を防ぐ
-
特記事項:買主が事実を認識・承諾した旨を明記(告知内容を引用)。
-
契約不適合責任の範囲・期間:心理的要因と物理的瑕疵を切り分け、設備保証は別建てで。
-
付帯設備表・内装仕様書:交換箇所と型番、保証の有無を列記。
-
引渡前内見の再実施:臭気・作動確認を決済直前にもう一度。
7) KPI運用(初動30日の型)
-
1〜2週:PV・問い合わせ率・内見率を計測。
-
3〜4週:反応が弱ければ写真差替え/文言強化、必要なら一回で伝わる幅の価格見直し。
-
反響ログは**理由別(価格・立地・心理)**に分類し、次の一手を“数値で”決める。
8) 例:ミニ試算
-
ベース相場 3,800万円
-
物理修繕 80万円、遅延2か月=10万円
-
心理的ディスカウント仮置き 8%(※近隣事例と反響で検証)=304万円
→ 出し値目安 3,800 −(80+10+304)≈ 3,406万円
初動2週間のKPIで**±1〜2%**を機動修正。
まとめ
告知事項ありの肝は、事実と数字で“納得”を作ること。
一次情報の束ね/ターゲット再定義/値付けの式化を徹底すれば、無用な“大幅ディスカウント”を避け、スムーズに着地できます。