不動産売却で最も揉めやすい論点の一つが告知義務です。
売主が「知っている重大な事実」を買主へ適切に伝えなかった場合、契約不適合責任による修補・損害賠償・解除のリスクが生じます。
価格を守り、決済まで滑らかに進めるために、迷ったら開示”+“一次情報で裏付けを基本にしましょう。
1) 告知すべき典型カテゴリ
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物理的事象:雨漏り・白アリ・給排水不良・設備故障・不同沈下・アスベスト等の使用歴や可能性
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法令・権利関係:増改築の適法性/未登記、越境(庇・塀・配管)、再建築可否、用途地域や道路の制限
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管理・修繕情報(マンション):過去の大規模修繕・長期修繕計画・積立不足・滞納率 等
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周辺環境:継続的な騒音・振動・臭気、近隣との紛争履歴
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心理的要因:いわゆる事故・事件・火災等の発生経緯(開示要否の判断が難しい場合は専門家と協議)
ポイント:**“売主が知っているか”**が軸。推測や風評ではなく、事実+根拠で整理します。
2) 実務フロー(売出前にやること)
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情報棚卸し
点検記録・修繕履歴・領収書・議事録・測量図・役所回答を可能な限り集める。 -
一次情報化
口頭の記憶は避け、写真・図面・診断書・見積など証憑に落とす。インスペクションの併用も有効。 -
告知書の作成
事実・時期・場所・対応履歴・現在の状況を短文で具体に。曖昧語(「多分」「聞いている」)は避ける。 -
価格・条件設計
告知内容を前提に価格位置を調整し、契約不適合責任の範囲・期間や、瑕疵保険の付保可否を整理。 -
重要事項との整合
仲介会社の**重説内容(レインズ図面・備考)**と齟齬がないか最終確認。
3) 書き方のコツ(ミニテンプレ)
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事実:2021年9月、台風時に和室南側の天井から雨漏りを確認。
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対応:同年10月に**屋根防水補修(ウレタン2層)**実施。写真・領収書あり。
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現況:2022年以降、雨漏りの再発は未確認。
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留意点:大雨時は点検を推奨。再発時の対応範囲は契約条項に従う。
→ 誰が見ても同じ理解になるよう、主語・時期・数量を明示します。
4) よくあるNGと回避策
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「営業的に黙っておこう」:短期的には楽でも、後日の請求リスクが最大化。→ 売出前に開示・価格へ反映が安全。
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曖昧表現:「昔、何かあったらしい」→風評の拡散。→ **一次情報(警察・消防・保険書類・管理組合資料等)**で裏を取る。
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“免責だから言わなくていい”:免責合意と不告知は別問題。知っている事実の非開示は原則アウト。
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告知のタイミングが遅い:交渉終盤で出すほど値引き幅が拡大。→ 募集開始時点で提示。
5) 告知と価格・スピードの関係
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早期に正面から開示した案件ほど、破談率が低く、価格のぶれも小さい傾向。
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代替価値の提示(例:修繕済・保証付・管理良好・眺望等)を並走させると、買主は総合的な納得をしやすい。
6) チェックリスト(募集前)
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物理・法令・管理・環境・心理の5領域で棚卸しした
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事実を一次情報で裏付けた(写真・書類)
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告知書に時期・場所・対応・現況を明記した
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価格と契約不適合責任の範囲/期間を整えた
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重説・レインズの記載と整合している
まとめ
告知は「値引き材料」ではなく、価格と信頼を守るための先手です。
迷ったら開示、分からないなら調査、事実は一次情報で——この3原則を徹底すれば、交渉は短く、決済はスムーズに進みます。